監督紹介

『天地悠々 兜太・俳句の一本道』完成に寄せて
監督・脚本 河邑厚徳

 偉い人はたくさんいるが、兜太さんほど多くの人から愛されている日本人を私は知らない。人間喪失の時代、生きとし生けるもの全てを肯定する兜太俳句に励まされる者はますます増えている。私たちが最後に頼れると信じていた存在、兜太さんは昨年の2月20日に98歳で急逝。大きな穴がぽっかり開いた……。
 2012年から折にふれ、兜太さんを撮り続けるという貴重な機会をいただいた。兜太さんはぶれることなく泰然としなやかで、ときに笑い、憂い、唸り、唄い、そして詠む。その世界は深く宏大で、語らう至福の時間は永遠に続くものと信じていた。しかし、最期が突然、訪れた。
 今こそ、ありのままに生き抜いた兜太さんの映像を記憶として共有したい。その強い想いから『天地悠々 兜太・俳句の一本道』を完成させた。ひとりでも多くの方々に観ていただき、兜太さんのこの記録が不透明な未来への道標となることを切に願う。

河邑厚徳 (かわむら・あつのり)

河邑厚徳 (かわむら・あつのり)

映画監督、映像ジャーナリスト。1948年生まれ。東京大学法学部卒。NHKに入局以来ディレクター、プロデューサーとして「がん宣告」「NHK特集 シルクロード」「チベット死者の書」等の作品で新しい映像世界を開拓。国内外で数多く受賞すると共に日本におけるTVドキュメンタリーのスタンダードを確立。初の長編ドキュメンタリー映画『天のしずく 辰巳芳子“いのちのスープ”』(12)も高い評価を得る。『大津波 3・11 未来への記憶』(15)、『笑う101歳×2 笹本恒子 むのたけじ』(16)に続く4本目の長編映画になる。